JPN150  SHARK  J    リクエストと設計

 初めにお断りしておきますが,デザイナーの横山氏と,私は旧知の間柄で,普通のデザイナーと客のオーナーという関係ではない事をご承知おきください。普通にデザイナーとお客さんの関係のおいては,お互いの意思を通じ合うために,より以上の時間とコミュニケーションが必要なのでしょうが,実際はデザイナーもお仕事ですから,時間は少なくなるのかもしれません。
 横山氏のデザインを作ることを検討していた頃から,クリストファー(横山氏設計ツボイ10.3IMS) のオーナーのご好意で,ふたりで毎週のように数ヶ月間,レースに練習に乗せて頂く事ができました。改良すべき点,より追求すべき点などを実感としてつかむ事ができて新艇を考える上で大変役に立ちました。極端な時には,日曜にレースをして,そのときの問題点を月曜にふたりで検討して,その週の図面に反映させるという作業もありました。ウィークデーに時間が取れることが多かったので,毎週のように事務所に通っていました。単に一艇の良い船を作るのが目的だったら専門家のデザイナーやビルダーにお任せしておけばよいのでしょう。世界中の良くできたプロダクションボートを探し出せばよいのかもしれません。そんな中で,やはりある程度高価になるワンオフを作るのだったら,設計や建造に参加できるという楽しみにお金を払っていると考えるべきだと私は思っています。

 
リクエスト全長30フィート,おもに置き場の経費の関係です。艇ができてからは,臨時係留費からエントリーフィーなど,年間で見ると31フィートに比べて結構な節約になっています。実際は31フィートにしてもそれほど船価は変わりません。プロダクションボートなら同じ価格で31といった方がより安く感じるでしょう。自分用なら30で充分です。
レースボートとしての目標。東京湾では1番になる,そのくらいだとレベルの上の相模湾でもレース艇と一緒に遊んでもらえる。FRPのコンポジットとしては,やはりFAR31などに比べてレベルが落ちる事は覚悟していました,その分を約3年基本設計が新しい事と,横山氏のデザインでカバーできるかどうか興味を持っていました。進水後の走りは充分カバーしていると感じています。
当面レース活動を主体とする。ただし一人でも安全に乗れる事。マアこれはスイングバックスプレダーのリグにすることくらいでした。
レース活動のために,不必要なものは原則的に省く,それによって予算も削る。この代表は,クォーターバースでしょうか。初めの設計では当然左右2本のパイプバースがかかれていました。IMSのアコモデェーションルールを見ると,この大きさではバースは全部で3本あればよいことが分かりました。片側のバースは,パイプバースを省略しました。その結果,ウォークインクローゼットのような大きなロッカーができました。セール,ラフト,フェンダーなど何でもしまえてとても使いやすい空間となりました。そして,バーストして使う時には,ストリンガーを利用して合板で蓋ができるようにしました。当然レース時にはこの合板は積み込んでいません。予算の方も数万円単位での節約になって両得です。
 初めの図面では,B-MAXあたりに左右にギャレーと,チャートテーブルがかかれていました。前の方に重量を集中する必要があったので,マスト横にギャレーを作るラフスケッチをFAXしたら,うまく2枚のバルクヘッドの間にギャレースペースを収めた図面が数日でできてきました。こんな具合で,デザイナーとオーナーの共同作業がすすんで,今の形ができてきたわけです。
 
全てはオーナーである私の自己責任になってくるのも気持ちの良いものです。例えばラダーです。ラダーはキールと同じ横流れを防ぐフォイルの一部であると言うことを実感として自分が理解し切っていなかったこと,10ノットオーバーの艇速で走る事がこんなに多いとは思っていなかったこと,波の小さい東京湾中心に考えていた事,こんなことで,抵抗を少なくするために,小さくしようとオーダーしました。大体NM30に比べて10センチほど短くなっています。波の中でのセーリングでは,今はちょっと小さすぎたかなと思っています。でもライトウィンドのセーリングでは適当なバランスで,気持ちの良いフィーリングを楽しめるようになりました。レースで勝つと,速い船だからと言われる事があります。普通だと,「うまく走らせているからだよー。船のせいではないよー。」とちょっとむっとする感じがありますが,自分で設計したみたいなものですから,それも素直に喜べます。負けたときも,船のせいにはできないわけで,その点も気持ちよく負けられまーす。
 
予算、出来上がるまでは、何しろギリギリでしたので,ロープ1本ブロック1個まで,安くなるように切り詰めました。H社のブロックは高いので,R社の同等品,トラベラーなどはF社の同等品と言う感じです。
 シートやハリヤードの加工,など自分でできることは自分でこなしました。例えばバースマットです。見積もりだと4枚で確か27万円でした。クォーターバースを1つにして節約,マットの中身のスポンジだけ作ってもらう事にしたら,18000円でできました。カバーは自作。マア、幸いミシンを使うのは仕事にしていた時代もあったので10分の1になりました。お勧めは,ギャレージンバル,ステンレスでオーダーすると3万円くらいになります。ユニット家具などに使う,アルミバーを組み合わせて,自分で作ってしまったら6000円。計器は,まだ結構円が強かったので,ウェストマリンの通販で,コンパス2個,スピードとウィンドで11万ほど。実はウィンドは今は動いていないのですが,この値段なら,あきらめもつきます。
 プロダクションボートを買うと,自分にとって必要のないものも付いてきます。いらないドアー,豪華な内装,レースするのにははずす事になります。外す可能性のあるものはつけない,買わない。結局,いくらかかったかと言われるとよく分かりません。ワンオフだと倍かかるとか言われますが,大体同じくらいのプロダクションボートをカタログ値段で購入して,レース用装備をカタログ値段でつけて,それに10%か20%上乗せくらいの感じです。ディーラーも使わず,工程管理も自分でやったり,それを業者に頼む事になるとまたまた大きな差ができてきますので,皆さんがやるときにいくらかかるかは,一言ではいえないと思います。ただ,計画の立て方によっては,思ったよりは安くできると言う事,自分にとってはそれだけの価値のあるものができると言う事はいえます。

建造物語トップに戻る ホームページに戻る